2022/06/22 11:09

こんにちは muni gallery です。

現在開催中の企画展「月下のチューベローズ」こちらは実は恋愛をテーマにした展示です。

チューベローズという花は夜になると香りが強くなることから、「官能的」「危険な関係」という花言葉。展示には少し秘密めいた夜の雰囲気漂う作品が揃っています。


(「恋葬」影山キヲ 水彩画  この世には存在していないような背景と女性の対比と顔の表情が印象的な作品です。)


(「the man is the moon」吉田みずほ ペン画 細部まで描かれた部分と漆黒が精神的にも奥深く引き込まれる作品です。)


恋愛は芸術作品のテーマとしてよく用いられますが、作品を制作する時、特に人物を描く時は恋人や妻など作家の好きな相手を描かれることが多いように思います。そこに愛情、寂しさ、悲しみが込められ、私たちはそれらを読み取ることで作品に共感できるのではないでしょうか。そこで今回は有名画家たちの恋と作品について書きたいと思います。


「情熱が空回りするゴッホの恋」


「星月夜」 フィンセント・ファン・ゴッホ


ゴッホはオランダの牧師の子として生まれました。子供時代は友達もいない陰鬱な日々を過ごしていました。ゴッホが20歳の頃、親戚の女性に恋をして告白までしましたがフラれてしまい、初めての挫折を味わいます。しかしすぐまた別の女性に恋をしてやっぱりフラれてしまいます。そのため仕事に身が入らなくなり無断欠勤もしたためクビになってしまいます。牧師の父を見て育ったゴッホは貧困層のための伝導者になることを考えますが、禁欲的過ぎる態度に富裕層から疎まれ、布教の効果は上がらず、父と弟テオの仕送りに頼りながら画家を目指す生活となっていきます。失業している時期に7歳年上の子持ちの未亡人に恋をして、弟にお金を借りて家を訪ねたり、(家に入れてはもらえなかったそうです)別の街に住み始めた頃にはそこで出会った娼婦のシーンを好きになり、出逢った時から妊娠中だったシーンのために生活費を負担してあげるようになります。しかし全て弟からの仕送りのお金でした。シーンをモデルに絵を描き、結婚も考えますが、働かずに絵を描くだけのゴッホから彼女は離れてしまいます。その後カフェで働く女性に恋をしてプロポーズしますが、周りの人々に反対され諦めることとなります。このようにゴッホは思い込むと周りのことは関係なく突き進んでしまう性格だったようです。ゴッホの作品は風景画と、自画像が多い印象があります。憶測ではありますが、恋愛も自画像も自分への理解者が欲しいという気持ちが強かったのではないかと思います。

「自画像 灰色のフェルト帽を被ったもの」フィンセント・ファン・ゴッホ


その後は同居生活をしていたゴーギャンとの関係が悪くなって自身の耳を切り落とし、精神的な病いで入退院を繰り返しながら画作を続けますが、自らを銃で撃ち死亡。私たちが知っている作品たちはゴッホの死後、弟テオの妻が世に出して売れた作品なのです。


「エゴン・シーレの危ない恋愛」

「左足を高く上げて座る女」エゴン・シーレ


エゴンシーレはオーストリアの画家で、躍動感のあるタッチで描かれた人物画が印象的です。性の部分やタブー視されていた部分を作品に取り込み、死や性行為など、倫理的に避けられるテーマを強調するような作品が多いです。画家人生の中でとにかくたくさんの女性のヌードを描きましたが、その中で一番最初にモデルとなったのが妹のゲルティでした。もともと仲が良かった兄妹ですが、ゲルティのヌードを描き、近親相姦の関係にもなってしまいます。ゲルティは流石にモデルになることを断るようになりますが、シーレは妹と同じくらいの歳の少女をアトリエに呼んでヌードを描いたりしていました。


「裸体の女」エゴン・シーレ


シーレが21歳の頃、2人目のミューズ(女神という意味でモデルとして特別な人の意味で使われます)となったのがヴァリという女性です。4年間同棲をして、途中、未成年との淫行の疑いで逮捕されたりするシーレのことを支えてくれていましたが、そんなヴァリがいるにも関わらずシーレは別の女性エディットと結婚し、ヴァリとも愛人関係になろうとしますがヴァリは当然怒って離れていき、更に婚約者であるエディットの姉にモデルを頼んだ末に関係を持っていたりと、自身の芸術のために多くの女性を犠牲にしている印象でした。

第一次世界大戦の頃流行していたスペイン風邪によって、エディットとシーレは亡くなります。28歳の若さでした。


「官能画家の運命の女性 クリムトとエミーリエ」


「水蛇2」グスタフ・クリムト


ウィーンで生まれ、彫版師の父を持つクリムトは、美術に関して石膏デッサンや模写など古典主義的な教育を受けて育ちました。しかし保守的な美術界から分離を目指す「ウィーン分離派」のひとりとして活躍する、それもビジネスを意識した動きを批判され決別してしまい、その後は上流階級の婦人の絵を描いたりと、公的な仕事は一切受けなくなっていきました。

生涯独身のクリムトでしたが、15人ものモデルを務めた女性がいて、その中の複数人と関係があり婚外子も数人いたそうです。しかし悪い印象というよりは、妊婦の女性を描いたりと女性に対して神秘的な希望が表現された作品が多く見られます。

そんなクリムトの只一人の運命の人と言われるのがエミーリエ・フレーゲです。エミーリエはファッションデザイナーで、クリムトが服をデザインするなどビジネスパートナーでもありました。親しい関係でしたが結婚することはなく、「官能の画家」と呼ばれたクリムトに唯一「精神的なつながり」のあった女性かもしれません。エミーリエはクリムトの有名な作品「接吻」のモデルだとも言われています。クリムトの亡くなる直前の言葉も「エミーリエを呼んでくれ」だったそうです。


「接吻」グスタフ・クリムト


今回は3人の画家の恋と作品を紹介しました。

ゴッホは不安や情熱を画面の中に表現し、それを理解してくれる人を求め続けました。

エゴンシーレはエロスと生と死を自分の感性で生々しく表現した画家でした。

クリムトは女性に希望や美しさを感じ、それに対する愛情を描きました。

それぞれの恋愛感や人となりを通して作品を見ると、その時の思いやコンセプトが伝わり更に作品が面白く見えると思います。作家にはそれぞれテーマのようなものがあり、その背景には作家の精神状態や死生観、人生観が見えてくることがあります。大好きな作品を見つけたら、作家のことを調べてみるのも鑑賞の一つの楽しみになるかもしれません。


企画展示「月下のチューベローズ」2022.6.26まで


muni
埼玉県蓮田市閏戸1808
営業日:土曜、日曜
13時〜18時 (ラストオーダー17時半)
お問い合わせ  municafe.as@gmail.com
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